賑 や か な さ む け

柴田有理(しばたあり)ブログ

読みづらかった草枕の主人公は画家

1.
グレン・グールドの愛読書は、夏目漱石の「草枕」です。
グールドについては、演奏がいいこと、あとは犬が好きなところくらいしか
私には分からないですが、


草枕を読んでみることにします。


祖母の家から文学全集・夏目漱石(一)を借り、
書き出し(つかみ)がキャッチーなことで有名な漱石の、「草枕」の書き出し


智に働けばふにゃ 情に棹させばふにゃ とかくに人の世はふーにゃん


の部分は私もスイスイ読んだのですが、


そのあとすぐつまづきます。主人公の考えが長く記述しっぱなしで、好意持てず。
何ヶ所か見てから本を自分の部屋にしまいました。


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2.
だいぶ経ったころ、百歳までの読書術 (津野海太郎)という本が話題になり、
書評を読めば、“読むページだけを本から引きちぎって持ち歩いて良い”という
考えがあるという。


私は漱石(一)から草枕を引きちぎってリュックに入れました。
それでいくらか歩いてみたが、大して読み進められなんだ。
作中で目立たせたい人物が、那美さんという人なのは分かりました。


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3.
草枕のことを忘れかけていた頃、
私の美術公募が好きが縁を呼んで、


草枕美術展FINAL」の募集情報を見かけることになります。
http://www.kusamakura.jp/web/kouryukan/imag/event/2016event/art-final-front.jpg


今回で終わって、もう続かないという点にひかれて、
これに合わせてまた草枕を読んでみるかと小さく奮起しました。


正攻法で行くぞ。漱石(一)の頭から読みます。
我輩は猫である」から行きましたが、すぐ読みが止まってしまう。
猫の一人語りが長く、何とかならないものかと悩む。

次に「坊っちゃん」に進むと、想像に反しすーっと読める。
赤シャツが中性的なのは知らなかった。休むことなく意地悪をしていた。
坊っちゃんは、清ばあさんを好きすぎるので、


後の世、女性観をフェミニストからからかわれても
仕方のない夏目漱石だった。


草枕」との取り組みがはじまる。
我猫の読みづらさに鍛えられ、なんとなく漱石の文体にも慣れたのか、
今回は興味を失いそうになっても負けません。


読んでいるとちゃんと、へぇいいことが書いてあるという部分がある。
主人公の画工は、物(植物、食べ物...)の観察がいい。
那美さんは安っぽいが、腹は立たない。
読了できそうだ。

この時期私は起きているのが苦手で、
睡眠が一日3回だったり、何をするにも8割はやめたい気持ちでしたが、

おそらく自分しごきをしてみる気になって、
起きて、草枕についての絵を描きました。
コンセプトは↓です。


草枕の画工は、描けばいいと思う。億劫でも描いてしまえば、いくらものにならなくても、画工の発見は画面に残るし、何より嬉しさが追い着いてくる。作中の、三本の赤松・サボテンについての着想・羊羹の美しさの話に心動かされた。志保田の家に物狂おしい女性がよく出ることを、長良の乙女の五輪塔に似たサボテンに代々の女らが入った葉が現れてくる様子に代えた。私は那美でなく画工を湯に漬けたく、硯石(豆のすけた羊羹)を枕に湯の中からだを浮かせている。


月末、草枕美術展から手紙が届き、
入賞を知らせる紙の一番下に、私の名前が載ってました。


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1.から3.までの間には、だいたい10年経ちました。
漱石(一)は、借りたままです。
借りた場所・祖母宅の二階に行く階段が急で危ないため、
現在閉鎖中なのです。